


刷られたばかりの紙をそっと持ち上げる。刷り上がった作品が姿を見せる。紙の上に新たなイメージが生まれる。冷静な眼差しでそれを見つめるのは版画家の藤田修さん。「インクが乾き切らない刷ったばかりの時が一番綺麗。まだ生きている状態。」という言葉通り、力強い美しい黒色が目を引く。刷り上がったばかりの一番美しい状態を見られるのは版画家の特権かもしれない。アトリエには版画に使う道具の他に様々なオブジェが並ぶ。自分で持ってきた物もあれば藤田さんが好きだと思ってと人が持ってきた物もあるという。版にインクを乗せる。丁寧に拭き取る。プレス機で刷る。あとは委ねるのみ。刷り上がってめくってみるまではどんなイメージができあがっているか分からない。そのドキドキ感が今だにあるという。それはダイレクトに絵の具を塗りつける油絵などとは違うところ。だから客観的に作品を見られる。そこが版画のいいところかもしれない。そう教えてくれた。これまでたくさんの失敗を繰り返してきた。一つ一つの無駄のない手の動き。そこに裏付けられた技術はそうした中で生まれてきたもの。失敗しなければ得られなかったものはすごく多いという。やったことのないことをやってみる事は好きだという藤田さんの挑戦はまだ続く。

















Profile
藤田修 / 版画家
1953年 横須賀市に生まれ 1979年多摩美術大学絵画科油画専攻卒業
1990年第18回日本国際美術展 ブリヂストン美術館賞
1992年第21回現代日本美術展 国立国際美術館賞など受賞多数
2003年「ブルガリア現代版画と日本(山梨県立美術館) 」
2016年「版画と彫刻(府中市美術館) 」
2020年「もうひとつの日本美術史(福島県立美術館、和歌山県立近代美術館)」
2021年「ライアンガンダーが選ぶ収蔵品展 (東京オペラシティアートギャラリー) 」
他、個展グループ展多数美術館に多くの作品が所蔵されている